名誉会長挨拶

企業の技術経営革新は品質工学で


品質工学会 名誉会長
田口 玄一

 品質には2種類あります。ひとつは「商品品質」で、消費者が望むもの、すなわち商品の機能や外観などです。米国ではカスタマークォリティと呼ばれています。もうひとつは「技術品質」で、消費者が望まないものです。これには商品の故障など機能のばらつき、使用コスト、公害などがあります。品質工学のコンセプトとしての品質とは「技術品質」を意味し、これを改善することを狙っています。

 市場での予測し得ない「技術品質」の責任をR&Dをはじめ技術部門は負っています。そのためにこれまで技術部門がとってきた対策は信頼性試験でした。しかし、市場の使用条件を完全に予測することは不可能ですから、いくら信頼性試験を行っても技術品質への対策には役に立たないのです。予測し得ない将来の課題に対して解を与えるには戦略的思考が必要です。問題が表面化してから対策を打つのでは手遅れなのです。これは、他社が新製品を出したあとで「それよりも良くて安いものを開発せよ」と指示するのと同じで、そこに戦略性はありません。問題が起こる前に将来起こるかもしれない多くの問題に役立つ汎用技術や先行技術を用意しておくべきです。そしてそれを可能にするのが品質工学です。

 品質工学はロバストネス(頑健性、機能性)の高い技術を構築することを狙っています。技術のロバストネスを確保することで、市場での未知の条件に対して「技術品質」を保証することを可能にします。そのために品質工学ではSN比という評価尺度を用います。これは市場の条件が変化しても機能が安定して発現するかどうかを定量的に示すためのものです。

 市場の条件が変化しても機能が安定する技術を構築するというのは、これまで様々な変数間の因果関係を調べることで研究を進めてきた技術者にはすぐには理解できないかもしれません。しかし因果関係による研究や信頼性試験は研究効率が悪すぎるのです。品質工学は因果関係の研究を行ってはならないと主張しています。品質工学会の現在のスローガンは「試作レス、試験レス、検査レス」です。研究開発の経費と時間の大部分を占めるのは、試作コストと試験や検査の時間です。これを止めることが、開発の効率化につながります。

 品質工学の目的は技術を扱う全ての部門の活動の生産性向上、すなわち開発のスピードを改善することにあります。技術部門における技術戦略を考える上で欠かすことのできない工学、それが品質工学です。技術担当者だけでなく、技術部門のマネージャや経営者の皆様においても品質工学を積極導入されることで、技術部門の生産性を向上し、技術経営改革に大きく貢献できると確信しています。

<略 歴> 1924年 新潟県に生まれる。
桐生高等工業学校紡織別科を卒業後、海軍水路部天文部入部。
厚生省衛生統計課,文部省統計数理研究所を経て,日本電信電話公社電気通信研究所に勤務。その後,インド統計学研究所客員教授,米ブリンストン大学大学院教授,青山学院大学理工学部教授などを務める。さらに,(株)オーケン社長,(財)日本規格協会参与を歴任。
1993年 品質工学フォーラム(現,品質工学会)会長
2002年 品質工学会名誉会長
2012年 逝去
<受賞歴> デミンク本賞(1960),理学博士(九州大学,1962),ロックウェルメダル(国際技術協会,米,1986),世界の科学、技術の殿堂入り(米,1986),藍綬褒章(1989),設計工学金賞(ASME,米,1992),米国オートメーション殿堂入り(米,1993),シューハートメダル(ASQC,米,1996),米国自動車殿堂入り(1997),米国品質学会名誉会員(ASQ,米,1998),米国機械工学会名誉会員(ASME,米,1998),20世紀の品質チャンピオン賞(2000) 他,多数。