2011年8月26日
品質工学会 審査部会


第19回品質工学研究発表大会(QES2011) 各賞の受賞理由


2011年 財団法人 精密測定技術振興財団 品質工学賞 発表賞
 2011年6月22,23日開催の第19回品質工学研究発表大会において、108件の発表の中から[財団法人精密測定技術振興財団品質工学賞発表賞]のうち2011年度発表賞の金賞1件と銀賞3件を表彰した。受賞発表の題名、受賞者名、賞の選定理由を報告する。

○金賞
題 目: 「ソフトウェア開発における設計過程への品質工学的手法の導入」 発表番号48
受賞者: 前田敏男*1,武澤泰則*1,天谷浩一*1,矢野 宏*2
*1(株)松浦機械製作所 正会員,*2応用計測研究所(株) 正会員)
選定理由:   工作機械や機械加工システムにおけるソフトウェアは高度でかつ複雑なシステムとなり、このようなソフトウェアのバグチェックは生産工程における重要項目である。品質工学ではソフトウェアの指令を全て信号因子として直交表の活用によりバグをチェックする方法が提案され実際に活用されている。しかし、設計後の検証段階でのソフトウェアのバグを見つけ出すことが効率化されても設計段階での検討を行わない限りソフトウェアの品質は向上しない。これまでも、直交表を用いた総合デバッグ手法を数多く適用し、バグ発見数は増加したが実稼働後の不具合は減少していない。そのため、直交表を始めとする品質工学的手法を検証段階でのバグチェック適用から設計段階への適用を検討した。具体的には、設計フローの見直し、信号因子・水準の体系化、総合デバッグ手法の検討を行った。設計段階においてL8〜L32までの小さな直交表を用いることを提案している。小さな直交表ならチェック結果から不具合の原因を推定することが容易なため原因解析など時間は修正時間にほとんど影響しないという。初期段階で原因を特定し、対応することで後工程の検証段階でのバグ発見、原因解析と対応の手戻り時間について、従来と比較して50%以上削減可能と判断できたという。
 品質工学の発展には新しい分野への適用や適用対象の拡大が欠かせない。ソフトウェア生産工程への適用についても従来の検証段階から、上流である設計段階の分野に適用範囲を広げた挑戦が評価された。また、設計段階に品質工学を適用すれば時間短縮などの大きな成果が得られる事を示した点も評価された。

○銀賞
題 目: 「エンジン内部のオイル保持部最適化設計指針」 発表番号5
受賞者: 沢田龍作*1,餅原隆浩*2,田中公明*1,西薗 円*3
*1トヨタ自動車(株) 正会員,*2トヨタ自動車(株),*3トヨタテクニカルティベロップメント(株))
選定理由:   エンジンオイルはピストンとシリンダライナの潤滑状態を適正にし、ピストンに負荷された筒内圧荷重をクランクシャフトへ円滑に伝達する役割を担っている。ただし、ピストンとシリンダライナ間のエンジンオイル量が多過ぎれば、必要以上にオイルを消費しコストがかかり、少な過ぎればピストンとシリンダライナ間で摩擦力が大きくなり、燃費悪化や焼付き、凝着、ランド欠損などの不具合に繋がる可能性が高くなる。そのため、オイル消費量は適量かつ外乱に対してロバスト性を高い次元で確保することがエンジン開発を進めていく上で重要度の高い項目の一つになっている。本報では吸気行程での吸い込み力に対するオイル消費量の変化に着目し標準SN比とシミュレーションを活用してオイル消費に大きな影響を持つピストンおよびピストンリングのパラメータ設計を行い設計指針を明確にした。入力をシリンダ内圧、出力をオイル消費量としてオイル保持部の部品間で形成される容積部および面積部を制御因子に取り最適化する。誤差因子は部品の寸法公差を取り、ボア変形と供給油量は標示因子とした。自動化システムを構築し計算の効率化を図った。標示因子L4×制御因子L36×誤差因子L36×5=25920、モデル作成〜計算で17週間必要と想定されるのを約1〜2週間にした。入力(シリンダ内圧)に対して出力(オイル消費量)が非線形になるため、標準SNで解析した。利得は約45dbに対して44dbとほぼ再現し、実物の確認でも結果がよかったという。
 品質工学はシミュレーションの活用を勧めている。これは実物実験よりもコストが低いという場合だけでなく、実物では測定困難な特性も取り扱えるからである。オイル消費量を実物実験するのは容易ではない。シミュレーションを用い品質工学との融合によりロバストでオイル消費量の少ない条件をみいだし、品質工学とシミュレーションの融合の有効性を実証したことが評価された。

○銀賞
題 目: 「1刃1回転の切削電力評価を用いた粉末積層造形条件の最適化」 発表番号8
受賞者: 天谷浩一*1,市村 誠*1,前田敏男*1,矢野 宏*2
*1(株)松浦機械製作所 正会員,*2応用計測研究所(株) 正会員)
選定理由:   金属粉末の積層造形と切削加工を交互に行う金属光造形複合加工法は新しい複合加工システムであり、自由な3次元水管や深溝、粗密造形によるガス抜きなど、従来の加工方法で困難とされていた形状の加工が可能となる。一方、このシステムは造形装置、切削装置の組合せであり焼結積層造形技術については研究者らにとって新しく、あまり知識、経験を持っていない。その為、焼結条件の最適化と評価方法の確立を目的とし、品質工学を用いて検討してきた。今回は5回目になる。理想の焼結積層材は均一であることとし、均一性の評価を切削で評価している。最初は推定16.49dbが確認で5.42dbと再現性が悪かったが、本報では、前年度に行った1刃1回転の切削電力評価を適用して、制御因子の水準の見直し、テストピース及び測定用切削方法の見直しを行い、推定6.55dbに対して確認4.95dbとなり、再現性を大幅に向上させている。特に如何に切削電力波形で現象を如実に捕らえる事が出来るかに焦点を当てて検討している。
 利得の再現性が悪いとき、基本機能、誤差因子、測定方法を再検討するのが品質工学の基本といわれている。しかし、制御因子間の交互作用のためと簡単に片づけることがよくある。本研究では電力波形の評価方法などの工夫を重ね利得の再現性を向上させている。品質工学の基本に沿うことで成果が得られることの実証が評価された。
 また、品質工学適用を試みてみる人は多いが、継続する人は多くない。研究を継続して成果を上げていることと、技術課題からは外れるがマネージャとして技術者育成への提言も評価された。

○銀賞
題 目: 「複数物理場連成シミュレーション効率化による全体システム評価技術」 発表番号25
受賞者: 中垣保孝*1,八木克哉*2,波多野 洋*2,山崎 茂*2,黒釜龍司*2,田村希志臣*3
*1コニカミノルタオプト(株) 正会員,*2コニカミノルタオプト(株),*3コニカミノルタビジネステクノロジーズ(株) 正会員)
選定理由:  光ピックアップ用対物レンズアクチュエータは少ない電流で動く駆動性が要求され、磁気回路部(電流―力変換)と構造部(力―変位変換)から構成される電磁気アクチュエータである。このアクチュエータが駆動する際、ばらつきにより傾きチルトが発生し、情報の読み書き性能を悪化させる。前報では構造部に検討の範囲を絞り、構造部のロバスト設計を実現可能な評価方法が構築できた。しかし、磁気回路部の設計を別途行う必要があるという課題が残っていた。本報は、磁気回路部と構造部を別々に設計するのではなく、全体システムの基本機能評価を構築することにより、開発上流で効率的なレンズアクチュエータ基本システムの実現と共に、駆動時のチルトをも同時改善することである。レンズアクチュエータの機能を入力はコイルに流す電流、出力は、駆動方向へのレンズ駆動量であり、動特性による評価となる。シミュレーションは精度をある程度確保して有限要素メッシュを極限まで粗くし、1実験1分以内を実現した。レンズアクチュエータはFocusとTrackの2つの方向の機能のSN比と感度をそれぞれ加算して要因効果図を作成し、総合最適条件を決める。その後、電流効率を考慮してチューニングを行っている。組立誤差、環境誤差に対して、駆動時に傾きが発生しないロバストで高効率なレンズアクチュエータの基本システム設計の評価技術の構築ができたとしている。基本機能による評価技術を構築したことが評価された。
 なお、シミュレーションの場合には、実物による確認が必要であり、今後の課題であろう。また、実製品の開発に適用し、小型・低電圧駆動で高推力が得られ、nmオーダーの駆動制御可能なアクチュエータを実現し、市場で高い評価を得ているというが、再現性などのデータがあるとさらによい。



2011年 品質工学研究発表大会実行委員長賞
 2011年6月22,23日開催の第19回品質工学研究発表大会において,108件の発表の中から2011年度品質工学研究発表大会の大会実行委員長賞が決定された。受賞発表の題名,受賞者名,賞の選定理由を報告する。
 なお,大会実行委員長賞は,実行委員長 谷本 勲の独自の選定で決定される賞である。

題 目: 「ガスタービンプラントの異常予兆検知」 発表番号3
受賞者: 高濱正幸*1,三上尚高*2
*1三菱重工業(株) 正会員,*2三菱重工業(株))
選定理由:  私は品質工学の特徴は以下に示す三つにあると思う。この三つの特徴、あるいは哲学、理念といっても良いが、その第一は目的指向であるということ、第二はその評価が相対評価であるということ、第三は損失関数という考え方、以上の三点である。
 この三つの特徴の最大の意義は企業活動における全ての機能間の対立軸を取り去ったと言う事にある。例えば、技術と管理は実行と監視という対立した関係であったが、品質工学の元では技術の完成度を上げることが直接管理の合理化に結びつくなど、全ての機能が目的に向かい整合性を持って同時に改革を進めることが可能となったのである。このことは改革のスピードを上げられるだけでなく、その成果は膨大なものに拡大される。品質工学の実行事例の評価ではこの観点からの評価が大切だと思っている。
 本発表はガスタービン発電(GTCC)プラントの異常監視において、今までの個別スペックをそれぞれに監視するのでなく、これら多変数データをMT法を用いて統合的にプラントの異常度合いを監視すると共に、項目診断を用いて異常の原因を推定、対策をとるシステムを作り上げた報告である。
 ガスタービン発電システムという巨大プラントを連続モニタリングすることによりリアルタイムに異常を検知し、メンテナンスに及ぶ管理システムの構築に上記の品質工学の特徴を活用し成果を挙げ、全世界のシステムとして実際に適用したことを評価したい。
 往々にして技術開発プロセスの改革とその成果に偏重気味の品質工学の適用事例の中で、管理プロセスでの成果は今日、日本の企業の置かれた状況に対し当を得たものと思う。「ものづくり」の掛け声で現業部門の生産性は正に世界に冠たるものであるが、間接部門の生産性は欧米に比して低いといわれている。一方、機能の複合化、複雑化の進化によるシステムの巨大化は止まることを知らない。更に、安全、安心への関心から品質に対する要求も高まるばかりである。このことは管理の精度と密度を更に要求され、管理の生産性は更に低下するばかりである。今後ますます管理の合理化の論理を確立する必要があり、この点からも当発表は大変意義深いものがある。
 くしくも大会直前の3月11日には東日本大震災があり、津波、更に原発事故という想像を絶する災害に遭遇した。都市システム全体が崩壊した現実を目の当たりにした。原発事故はそれに輪をかけ、被害を拡大した。このような巨大システムをどう管理していくか、機能崩壊したときの損害をいかに最小化するか、提示された課題はまだまだこれからであるが、巨大システム管理に最終的にはマラノビスの距離MDという一つの数字で管理出来たことを示した点からも当発表は意義有るものと思う。巨大システムに対しての安全管理に対して果敢なる挑戦の第一歩として、品質工学の元で、これをこつこつと積み上げて行くことが、安心、安全な社会が実現する道であることを信じて実行委員長賞とした。
   大会実行委員長 谷本 勲



2011年 品質工学会 会長賞
 2011年6月22,23日開催の第19回品質工学研究発表大会において,108件の発表の中から2011年度品質工学研究発表大会の会長賞が決定された。受賞発表の題名,受賞者名,賞の選定理由を報告する。
 なお,品質工学会会長賞は,会長 伊藤源嗣の独自の選定で決定される賞である。ただし,評価の視点「グローバルな収益の復活・強化に寄与する」は事前に公表されている。

題 目: 「IEとQEのコラボレーションによる検査レス化」 発表番号39
受賞者: 大塚祐一*1,上杉一夫*1
*1アルプス電気(株) 正会員)
選定理由:  会長賞の選定基準として今回は「グローバルな収益の復活・強化に寄与する」発表とした。急速にコスト競争力を失ってきたわが国の製造業の収益性改善に直結する課題に挑戦して成果を上げた発表を選定したいという意図である。
 本発表はIEによる工程バラシにより無駄な作業・動作を大幅に削減し、更にQEによる検査レス化(不良率が0または非常に小さい検査項目の廃止)を実現して労務コストの大幅な削減を実現したことにより、検査レス化による組立工程での不良品の廃却費用を大幅に上回るコスト・ダウンを実現したものである。IEの適用による「ムリ」「ムダ」「ムラ」の排除とQEを適用した検査設計による検査の可否判定を組み合わせ、大きな効果を上げた事例として高く評価する。
   会長 伊藤 源嗣
 

 
 <2012年 品質工学会会長賞 評価の視点>
 2012年6月28,29日開催予定の第20回品質工学研究発表大会における品質工学会会長賞の評価の視点について、会長 伊藤源嗣より以下の提示がなされた。会員各位の会長賞への挑戦を期待する。
 
 「長期にわたるわが国の不況に加え今年3月11日の東日本大震災によりわが国の製造業は深刻な打撃を蒙り、グローバルな競争力は著しく低下している。製造業の海外移転が進み国内雇用の減退が強く懸念される。寄与することを意図し確実な成果が期待される研究発表に賞を出したい。」
   会長 伊藤源嗣
 


以上